そのアジアンエステのホームページには『駅近くの〇〇□□店まで来たら電話を』と書いてあった。予約の電話を入れると、「オーケーNサンネ。イチジカンゴ」とだけ告げられた。Nのいうのはエステティシャンの名前。こちらは指名もしていないのだが。
詳しい説明もない。その後、「こんにちは、お兄さん。〇時、○○マンション下着いたらメールくださいね。お兄さん」とショートメッセージが届いた。
一時間。
中途半端な待ち時間を潰すため、私は堺筋本町の地下街へ降りた。

天井は低く、通路の両側には、コンビニ、昔ながらの喫茶店、寿司屋、定食屋、紳士服店、作業着を扱う店などが肩を寄せ合うように並んでいる。この辺りは大阪を代表する商業地「船場(せんば)」のど真ん中。由緒ある商人の町。

高度経済成長の頃から時間だけがゆっくり積み重なったような空間だ。人通りは意外なほど多い。
チェーン店ではない、小さな寿司屋の暖簾をくぐる。カウンターには遅めのランチをとるサラリーマンらしい男が二人。

「板前」というには気品に欠けるオッサンの握る、寿司セット。小うどん付きで1000円。
地下街という場所は不思議だ。
地上の蒸し暑さも夕焼けも関係なく、時間だけが一定の速度で流れている。その中で自分だけが、誰にも知られずアジアンエステ、もといマンションの一室へ向かおうとしている。その事実が少しだけ背徳的で、滑稽だった。
約束の時間が近づき、指定されたマンションへ向かうために駅からオフィス街へ出る。「堺筋」という名前は、大阪・堺へ向かう街道だったことに由来している。江戸時代には紀州街道の一部として利用され、商人だけでなく大名行列も行き交った。当時から人と物が集まり、商売が盛んなエリアだったのである。指定されたマンションのある町名も、その歴史を感じさせるものだった。
ボロくもなく、美しくもない、ごく普通のマンション。オートロックがあり、宅配ボックスが並んでいる。到着を知らせるショートメッセージを入れると、部屋番号だけが伝えられた。
部屋の扉を開けて迎えてくれたのは、小柄な女性だった。タイトな黒いTシャツに白いホットパンツ。20代中盤くらいだろうか。日本人かな、とも思った、声を聴くまでは。
「ハイッテ、baby」

室内は、生活感のあふれる何の変哲もないのワンルームマンション。カーテンは閉め切られて真っ暗だ。いくつかある間接照明だけが部屋を照らしている。

カバンなどをテーブルの上に置くよう、身振り手振りで指図される。
「Take a shower」
促されて服を脱ぐ。Nもおもむろに服を脱ぎ始めた。いわゆるマンション型のメンズエステとは雰囲気が全く違うようだ。
マッサージを受けながら、たどたどしい英語の会話を続ける。
Nが何を話しているのか、そのほとんどは聞き取れない。
にわかに、窓の外からサアッと雨の降る声が聞こえた。
Nはすぐにマッサージの手を止め、窓に駆け寄ってカーテンを開ける。
「I like rain」
雨が好き。大阪の雨は母国のそれに似ているのだろうか。
結局、お互いに半分も意思疎通はできていなかったと思う。
それでも、不思議と気まずさはない。
言葉が通じないからこそ、空虚でない時間が流れる。
都会に行きかう人々の殆どの人は、殆どの人と、
一言も交わらずに人生を終える。
エレベーターで一階へ降りる。
外へ出ると、堺筋本町の街は粛々と動いていた。
コンビニへ吸い込まれていく人影。
スーツ姿で足早に駅へ向かう人々。
誰も、このマンションの一室で交わされた拙い英語の会話など知る由もない。
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堺筋本町 CASE ssh001
AREA 大阪市中央区
COURSE 50min
PRICE ¥13,000
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LOOKS 7.5
SERVICE 7.5
TALK 6.5
CLEAN 7.0
VALUE 7.0
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MEMO
部屋は一般的なワンルームマンション。
真っ暗なため詳細は不明だが、極端に不潔ということはなさそう。
堺筋本町というオフィス街で非日常を味わいたいなら
一度訪れてみてみいいかもしれない。
ただし、アジアンエステという特殊な業態から言っても
そこで起こることに関してはすべて自己責任というほかない。
高級感や清潔感を求める人には向かないかもしれない。
しかし金額に見合ったサービスは受けられると思う。
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関西煩悩特区 

